平島に降りた男には、いつもと違う気持ちがあった。強い風に道糸がとられて仕掛けが思うように潮筋に入らない。得意のはずの際狙いも際は洗濯機のようなサラシで仕掛けが際にとどまらない・・・ウネリで釣り場が限定されているため場所も変われない・・・・この目の前の状況に出てきたものは・・・言い訳。

こんな状態じゃつれん!!こういってしまいたくなるような気持ちが顔をもたげる。逆光で何も見えない沖目に振り込むも・・・魚の反応は無い・・・・

【坊主じゃなければ良い】

こう思ったこと・・・・すなわちこの時点で彼の今日の釣りは終わっていた。メキメキと腕を上げるメンバー達・・・これだけの大差がついた状態でもけっして諦めないセカンドグループ・・・・・首位に届かないかもしれないのは分かっていても自らのプライドと成績を少しでもランクアップさせようとする向上心。

それぞれがそれぞれのポジションでこのB-1Gpを真剣に戦っている・・・・こう思ったとき、

「この素晴らしき選手達に最高の敬意を称する意味でも全力で釣りをして・・今日決める!」

こう思っていたはずの彼の気持ちは、なんの迷いも無く逃げ道を探した・・・・「次の勝負のために」と言う「逃げ口上」へと変わっていた・・・すなわち敗退。なんの敗退なのか???なにがあろうとも揺るがずにその位置を死守すべきトーナメントリーダーとしての心の惨敗・・・・。

 
こんなCoリーダーを戒めるように・・・彼は復活した。

追憶・・・そう、あれは昨年の6月・・神津島、恩馳群島、長ン根でのこと・・・釣れない、釣れないは運が悪い・・・・そう思っていた。釣れないのは場所が悪い・・・磯が悪いと思っていた・・・その哲学が崩れた瞬間、衝撃的なトラウマと敗北感の中に生まれたものがあった・・・そしてこの例会を迎える・・。

なによりも大きな変化を見せた選手の一人であった彼であったが、前戦「白浜決戦」で・・・セカンドグループから脱落、糸が切れるようにそのまま気持ちが萎えていくのではないかと思っていた。しかし誰もがそうであるように何かを感じ何かを見出した彼の視線の先にはまだまだ首位のモタモタした足取りが見えていたようだ・・・。

そしてこの背水の陣の大舞台で見事初優勝を手中に収める・・・あの何かが芽生えた瞬間より、その顔を上にしか向けてこなかった男の完全勝利。厳しい状況下でアベレージサイズを唯一30a台に乗せての完全勝利。

 

彼にはこの太海大会でのもう一つの勝ちたかった理由があったと聞く・・・・昨年の同時期。伊豆下田沖磯での出来事。いまやBIGONEの若手筆頭でもある海春・ウニマサなどと同行した磯で若手に負けたくない・・・ベテランとしての意地を見せたい、こんな気持ちが現れたにもかかわらず結果を残すことができなかった・・・忘れられない苦い思い出。

奇しくも今回、同じ磯に乗ったのは、BIGONEの新たなメンバー「タケ」。彼もまた新メンバーとして今後のBIGONEの釣りの歴史に名前を刻んでいく人物であろう。

しかし今回の若手は海春とは異質の若手。四国でならしたそのテクニックは新人と言うカテゴリーでくくれない匠の釣り人。それでも負けられない・・・この気持ちが彼の復活の導火線になったことは言うまでも無い。B-1Gpが年間タイトルの競技である以上競い合うのはもちろんのこと、誰にとっても負けたくない、勝ちたいと言う気持ちは明確に現れる。

競技とはこの気持ちを誰よりもあらわに維持したものこそがその頂へと立つことができるものだ。そういう意味では彼に限らずどこの磯でも普段は仲間であり飲み仲間である同じクラブのメンバーがライバルになり負けたくない対象者となる。

仲間すべてがライバル・・・・これほど恵まれていて実のある釣りができる・・・これこそがこの競技の主旨。そしてそれを実証するように例会を重ねるたびにそれぞれのメンバーの釣果は確実に上がり・・技術も果てしなく向上している。